第3章 オペナース
うっすら血に滲んだ自分の手を見つめた牛島を羽音は見つめる事ができないでいた。
「羽音ちゃんも入れる?」
木兎の声に羽音も咄嗟に返事をしたが、牛島は目を閉じたまま何か考えている様子で、隣居た羽音は一瞬戸惑った。
「迷ってる暇ないよ、若利」
聞き覚えのある声は、大平で牛島の肩を叩きオペ室へ向かう様に促す。
実はこの2人、高校時代からの同級生であり良き戦友。
木兎と牛島が並んで走り、その後を羽音達が追った。
「お前のチームじゃねぇし、俺のチームでもねぇ。でも、今目の前の患者助ける。それだけだ」
「俺は…」
「女とはオペに立たないとか言うなよ!そんな事言ってる場合じぇねぇんだからな」
もの言いたげな牛島が羽音を見る。
引いた方がいいのか…と羽音も悩んだ。
しかし、木兎の言う通り今この状況でオペに入れる看護師は自分と大平しかいなかった。
「川西君向かってるって、黒尾先生は先に入って準備中」
オペ室前で機材準備している二口が木兎に説明する。
「黒尾先生って…精神科の?」
「あいつ、昔はここの勤務だったんだぜ」
得意げな顔で羽音にウインクを飛ばす木兎。
その隣で難しい顔をしながら手を洗っていた牛島がやっと口を開いた。
「瀬見は、どうした?」
そう言えば、天童と一緒に出張に出かけたはずだったことを思い出す。
「瀬見先生は無事です。ただ、手をけがしてしまったみたいで助手は無理そうです」
走り込んできたのは羽音の同期の山形だった。
息を切らしながら準備に入る。
「よしっ、手が揃った。始めっぞ!」
怪訝そうな顔をしながらも着々と準備をしている牛島と複雑な思いを抱えながら後に続く羽音。
しかし、目の前の天童を見れば悩んでいる必要なんてないのは明白であった。