第3章 オペナース
緊急を知らせるアラーム音と共に「スタットコール、レベルMaxです」の声。
羽音は、急いで立ち上がり室内入り口に設置されているモニターパネルを確認する。
「救命センターです、先生」
振り返れば、牛島は既に白衣を羽織り医者の顔へ戻っていた。
緊急招集である。
院内に在院している手の空いたスタッフは緊急事態対応の為、当該の場所へ集合する。
牛島も羽音も、急いで救命センターへ向かった。
自分達が向かう中、知った顔のスタッフたちとも途中で合流し、何事かと問いかける。
「環状線で大事故みたいです。周辺の緊急病院に患者を分散しているみたいですが、夜間ですし人手が足らないんですかね」
そんな会話が他からもちらほら聞こえてくるうちに、到着した救命センターではすでに患者がたくさん運ばれてきていた。
「牛島先生いらしたんですか、助かります」
初療室から声を掛けてきたのは五色で、怪我をした患者の手当てをしている。
羽音も牛島もそこへ入ろうとした時、更に救急車が到着し患者が降ろされた。
反対側の入り口からは、私服姿の木兎と赤葦が駆け寄ってくる。
「なんか、大変そうな事になってるみたいだったから戻ってきた」
木兎は腕まくりすると今しがた到着した急患の方へ向かった。
救急隊から患者を引き受けた木兎はその患者の顔を見て絶句する。
しかし、間髪入れずに彼の名前を呼んだ。
「牛島っ!」
その焦りを帯びた声に初療室にいた牛島が木兎の方へ顔を向けると同時に、その場にいたスタッフが一斉にそちらへ視線を向ける。
立ち上がった牛島はストレッチャーに乗せられた人物のシルエットを見て、すぐにそれが誰であるかに気づいた。
「天童?」
彼の名前を呟くと同時に再び木兎の声が響く。
「トリアージレッドだ。今すぐオペ室準備しろ!」
「木兎先生、麻酔科も先生が手一杯です」
「赤葦!黒尾呼べ!」
「はいっ」
目の前で会話が交わされながら、身体の様々な所が血に染まる天童の元へ駆け寄った。
微かに動いた天童の手が牛島の手をかすめる。
「手術室へ向かいます」
ストレッチャーを推している看護師が自分たちの前を通り過ぎ、後ろから早足で歩いてきた木兎が牛島の前で止まった。
「心臓は俺が助ける。それ以外はお前の仕事だ。同時にオペすっぞ。間に合わなくなる!」