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外科医・牛島若利

第3章 オペナース


木兎の部屋を出て、隣のドアプレートを見れば在室の文字。
白衣のままでこの部屋に入ることはほとんどなかったことを思い出す。

…とドアの前で戸惑っていると、突然牛島の部屋のドアが開いた。

「あっ!」

その部屋から出てきたのは天童で、思わず出してしまった声を押さえる。
羽音と目の合った天童は、部屋の中を指さした。

「今、仕事終わったヨ~。俺、これから瀬見先生と出張行ってくるから、夕飯でも食べて行ったら」

後頭部で手を組んで鼻歌交じりでその場を後にした天童に頭を下げて顔を上げれば、まだ開いているドアの隙間から牛島がこちらを見ていた。
目を合わせて先に顔を赤くしたのは羽音だ。

「入るか?」

周りに誰もいないことを確認して羽音を室内に誘い入れる。

「失礼します」

言いながら、ゆっくりと部屋の中へ入れば、いつもと変わらないその整頓された空間に落ち着きを感じた。

「何か飲むか?」

珍しく牛島がポットの前に立ち羽音からの返事を待っている。

コーヒーを淹れた牛島は、羽音の隣に並んで座った。
彼の淹れたコーヒーを口にする姿をジッと見つめている様子を不思議に思った羽音は牛島の方を見て首を傾げる。

「美味いか?」
「はい、とても」

羽音の返事にホッとした様子を見せてから、自分もそれに口を付けた。

「あまり、自分で淹れたことがないからな」
「そうですね」
「もう、仕事は終わったのか?」

白衣姿の羽音を見るのが珍しいのか目のやり場に困っているのか、視点が定まらない様子の牛島に羽音は、クスクスと笑う。

「木兎先生に資料を届けて、終わりです。先ほど終わりました」
「そうか」

しばらく、仕事の話をしながら2人だけの時間を過ごす。
牛島のオペの話はやはりいつ聞いても面白いし、今度の自分の仕事の役に立つ話も多い…そして、いつの間にかコーヒーも飲み終えようとしていた。

向かい合った2人がお互いの唇を重ねようとした時、甘い雰囲気には似つかわない音が部屋に鳴り響く。
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