第3章 オペナース
木兎先生たちとの回診も終わり、頼まれていた書類を木兎ルームへ届けたら今日の仕事は終了である。
羽音もほっと一息つけそうだと時計を見ればすでに20時を回っていた。
少し急ぎ足で木兎先生の部屋へ向かう。
【木兎】と書かれた部屋の隣【牛島】の文字を確認してから木兎の部屋のチャイムを鳴らす。
カチャと開錠の音が響き迎え入れてくれたのは赤葦だった。
本当にいつもこの2人は一緒にいるなと感心させられるほどだ。
「ごくろうさんっ!」
書類を受け取った木兎は羽音にねぎらいの言葉をかけ、赤葦が淹れてくれた紅茶を勧める。
先日よりは少し片付いている様子の室内ソファーに腰を下ろした。
「今日は色々お疲れ様」
赤葦の言葉に何故かドキリとした羽音。
「そんでさぁ、羽音ちゃん。牛島君とはどうなの?」
隣にドカリと座り込み興味津々といった顔で覗き込んでくる木兎。
今日は、赤葦も止めるつもりはないらしい。
澄ました顔で紅茶を飲んでいる。
羽音が困った顔で赤葦を見てみたが
「業務時間外なので」
とサラリと流された。
つまり、就業時間内のセクハラ発言は制止するが時間外になればプライベートタイムという事だ。
見た目通りなのか、きっちりしている。
「牛島先生は、あこがれの存在です。尊敬もしています」
「正当」
「今さら隠すなよ」
「今さら聞かないでください」
木兎と羽音のやり取りに向かいに座っていた赤葦がクスクスと笑い出す。
「木兎先生、そろそろ羽音さんが可哀想ですよ」
赤葦に言われて、木兎も羽音への質問をやめた。
「俺も、牛島君の腕は尊敬する。まっ、俺も尊敬されてると思うけど」
自信満々な所は同じなのに、全くと言っていいほどに性格が違う。
同じ医者でも色々いるものだ。
紅茶を飲み終えた赤葦が廊下の方へ視線を飛ばし、羽音も思わずそちらを向いてしまった。
「牛島先生戻られたみたいですよ」
微笑みがこんなにスマートな男性もなかなかいないだろうと思われるほどに笑みを流し羽音のカップを片づける赤葦。
「俺ら、帰るから気にしなくていいぞ!」
対して木兎のデリカ―シーのなさは天下一品である。