第1章 小さな恋心
「立ったままはやりにくいでしょ?俺のデスク使いなよ」
「・・・でも、いいよ使いますよね?」
「俺はパソコン」
「・・・でも」
「・・・いいから!ほら!」
腕を掴まれて、ぐいっと引かれた。私は驚いて慌てたけれどそのまま肩に手を置かれて無理矢理デスクに座らされた。強引な彼の態度に狼狽える。
「た、高林さん!」
「遠慮すんなよー最近、冷たい一瀬ちゃん」
抗議しようと顔を上げれば、拗ねたような表情に寂しそうな目をしていて、言葉を詰まらせる。視線を合わせるのが気まずくなって持っていた書類をデスクに置いて彼から背を向けた。
「もう、何言ってるんですか。そんなことありませんよ」
「その敬語!最近タメ口だったじゃん」
「仕事の時はいつも敬語でしたよ」
「そんなことない!」
どうしてそんなにこだわるのだろう。確かに、最近はタメ口が多かった。それを敬語に戻したのは、自分と彼との関係は職場の関係だと自分の気持ちと距離を置かせるため。けど、元々高林さんの方が年上だし、立場も高林さんの方が上なのだから敬語にでもおかしくはない。そんなに必死になる事じゃないのに。子供みたいな態度に戸惑う。
「敬語でもいいじゃないですか、元々敬語じゃないと駄目なんですから」
「それは確かにそうだけど、普通の会話の時なタメ口でいいよ」
「・・・頑なですね」
「一瀬ちゃんこそ」
「なんなんですかもう、高林さん変ですよ?」
「それを言うなら一瀬ちゃんだって変だよ」
「私?私は普通です」
「それなら俺も普通だよ、タメ口にしてって言うのも普通!」
「・・・はぁ、そんなにタメ口にこだわるの?全く、わがままね高林さんは」
永遠と続きそうな気がして諦めたとばかりに溜息を漏らしてタメ口に変える。すると彼はホッと安心したようにふにゃりと笑った。納得がいったらしい。
「だってさ、急に敬語になったら嫌だよ」
「・・・・・・そんなことないですよ」
「敬語」
「・・・ないよ」
タメ口を指摘されるのではなく、敬語に指摘される違和感。不思議過ぎる。それと高林さんの新たな一面が見れた気がした。