【跡部】All′s fair in Love&War
第38章 恋と戦争に手段は問わない(後編)
跡部とじっと、交わったままの視線。居心地が悪いようで、しかしどうにも逸らすことが出来なくて、私は固まったままでいた。目は口ほどに物を言う、と言うけれど、跡部の真っ直ぐな目は、私に何か伝えたいのだろうか。それなら私の目から、私の心ごと伝わってしまえばいいのに――
しかしそんな時間はあっという間に、響き渡るアナウンスで終わりを告げた。チケットを確認すると、自分の乗る飛行機が搭乗準備に入ったという。
ずっとこのままで居たい、なんて。甘えた感情を振り払うために、下を向く。瞬きをしたら涙がぱらぱらと落ちた。これで大丈夫、私は笑える。今までだって、ずっとそうしてきたじゃないか。
最後に皆の心に残してもらうなら、笑顔がいい――
顔を上げ、振り向く。皆が薄らと涙を浮かべていて、茉奈莉ちゃんとちょたなんかはもう号泣で。
「みんな、そろそろ行くね!お見送り、有難うっ!」
「千花ちゃんっ…いってらっしゃいっ」
「松元、頑張れよ!」
大きな声を上げ、大きく手を振り。自分も泣きそうになっている、そんな感傷を振り払う。そして、また跡部に向き直った。でも、顔は見れない。ぎゅ、とポシェットの肩紐を握る。
大丈夫、来年からも宜しくねって、ちゃんと言いたい事は言えたんだし――
「頑張って下さい」
ヒヨの言葉と、
「お前の言いたい事はそれだけか」
跡部の言葉がぐるぐると頭の中で回る。
でも、今こんな状態で、何を言えって言うの?大丈夫、来年まだこの思いが残っていたら、もう一度向き合うから、だから待ってて――誰ともなしに、そんな言い訳をして。
「…あとべ、ありがとっ…また、ね」
跡部の横をすっと、通り過ぎる。もう、振り返れない。今振り返ったら、きっと情けない顔を見せてしまう。
例え負けたって、跡部はいつも前を見ている。後悔なんてしてない。そんな姿に惹かれたんだから、真似くらいしたっていいじゃないか。あぁでも、最後に顔を見ておけば良かったな。
心底まで見透かされそうな、真っ直ぐな目が好き。ビックリするくらいハードに鍛えているのに、細身の身体が好き。風が吹くとさらさらと靡く、柔らかな髪が好き。大きな手も、よく響く声も、全部好きだったのに、こんなに好きだったのに、どうして言えなかったんだろう?