【跡部】All′s fair in Love&War
第1章 親愛なる帝王様
「ぎゃーーーーーーーー!!!!!」
女らしさなど欠片も感じられない、およそ色気のない大声が何処からか聞こえた気がした。賑やかなコートでは部員の鍛錬の声が響き渡っており、彼はその中心に立っていた。
しかし彼は喧騒の中、耳聰くその声を拾い、はぁ、とため息をつく。そして近くにいた部員に声をかけると、部室に向かい歩き出した。
「ぎゃーーーーーーーー!!!!!」
そして場面は冒頭へ戻る。
大声の主は松元 千花。
強豪、氷帝学園中等部男子テニス部の女子マネージャー、三年生。日常業務にも慣れて部員達のサポートも板につき、皆に感謝され一目置かれる存在…の、筈だった、自称では。
氷帝学園テニス部では厳しくランク分けが成され、コートはおろか部室も全くクオリティが違う。
冷暖房完備、最新鋭のトレーニング機器、疲れを癒すマッサージチェアやふかふかの高級ソファなど、中学生に与えても良いのか甚だ疑問のそれらを揃えた正レギュラーの部室。それ相応の豪奢な造りであるにも関わらず、その主は中学生男子達。それ相応に、まぁ、乱れていた。
――なんて勿体ない。
あんな奴らにこんな贅沢させなくても、頑張ってる野球部やサッカー部にちょっと分けたげてよ!
飲みかけのジュースは机の上に置きっぱなし。
使いかけのタオルはクリーニングに出されず脇に固められている。個人のロッカーがちゃんとあるのに荷物はその辺に出しっぱなし。じゃあロッカーには何を入れてるの?と思うくらい、扉はもうすぐはち切れて開いてしまいそうだ。
――これだから金持ちのボンボン共は!
あたし――松元 千花は中流家庭の育ちで、そもそも親友の守河 茉奈莉ちゃんに誘われて受験をしていなかったら、こんな所にはいない存在。家にメイドさんは勿論いないし、ロボット掃除機も無い。自分のものは自分で片付けないと親に怒られる、そうして育ってきた。
坊ちゃんたちは自分の部屋の掃除なんかしないんだわ、そう一人ごちると部室の整理に取り掛かろうとした。まずこのだだっ広い机の上から…と手を伸ばす、その先に、部員の向日の飲みかけのジュースが不運にも待ち受けていた。