【跡部】All′s fair in Love&War
第29章 はじまりのつづき(中編)
このやり取りもそろそろ潮時だな、と思った矢先――視界の端に、見間違いようの無い後ろ姿が映る。そしてそちらに気を取られた事に目ざとく気付き、奴は一矢報いるとばかりに、その方向へ力任せにショットを放つ、が。俺の背を遥か超え、確実にコートの枠を割出るであろうその球は、真っ直ぐ彼女へと向かう放物線を描く――
「おい、松元っっ!!!」
何とか間に合い、松元の前に立ち、ラケットを構える。弾いた球は、がつっとフレームに当たり、跳ね上がって落ちた。ネットの向こうで真っ青になる奴を睨みつけると、逃げるようにコートを後にするのを見送る。そして、松元の方に向き直る。
顔だけこちらに向けた彼女は、何が起こっているかもわかっていない様子だった――その姿に、ふつふつと怒りめいた感情が沸き起こる。結局コイツも同じ、ただのミーハー心でここに来ているのだ。配慮ない行動も、試合を中断された事も、腹だたしい。
「コートに入るなら、ボールに背を向けるんじゃねぇ!ジロー!お前がついていながら何してやがる!」
「ちょっと、ジロちゃんは関係ないですっ…あたしが不注意だっただけで、そこまで言う事無いでしょう!?」
ジロちゃん、と彼女が発した呼び名も、この短時間でそこまで距離を詰めているジローも、気が食わない。俺が目を付けていた女だ、等と知る由もないのに。理不尽だと分かっていながら、言葉は止まらなかった。
「お前に非があることは確かだろうが、庇ってやった俺様に対してその物言いかよ、松元」
一目惚れ、なんて矢張り嘘っぱちだったのだ。何も知らないまま惹かれる、なんてろくな感情な訳が無い――もしくは、自分の見る目が足りなかったのだ。勝手に幻想を抱いて、勝手に失望される、こいつも災難だな、なんて何処か冷静な自分が頭の中ごちる。
「ジロー、桜木もマネージャー志望だと言っていたな。こんな無礼な奴に、格式ある我が氷帝テニス部のマネージャーが務まると思うかよ、アーン?」