【跡部】All′s fair in Love&War
第29章 はじまりのつづき(中編)
次の日、松元を視界の端に留めながら、俺はまた雌猫共との下らないやり取りに終始していた。先の休み時間、いつものように教室を出ていった松元はしかし、すぐにクラスに戻ってきた。そして今はじっとしている。連れの女がいなかったのだろうか、少し塞いで見える。
どうした、と話しかければ――ただそれだけの事なのに、躊躇われる。
その時、しまっていた携帯が胸ポケットの中でぶぶ、と震える。――ジローから?休み時間に起きていることすら珍しい、となると急用だろうか?少し慌てて電話を取る。
「あとべっ!守河がマネージャーで!見学に来てくれんだって!」
開口一番、ジローの大声に顔をしかめる。だが、守河、という名前には聞き覚えがあった――
「でさ、跡部のクラスの…えーと、誰だっけ?女の子も、一緒に見学に来てくれるから宜しくなっ」
「…誰だよ、ただのミーハーなら要らないぜ」
「…えーとー。あとで守河にもっかい聞いて、メールしとくからさ!」
じゃ、と言って通話は打ち切られる。ジローの歓喜めいた興奮、そしてA組にいるという友人、に半ば確信めいた物を覚える。そして、メールには思い描いた通りの名前が記されていてほくそ笑む――
――松元 だってさ、知ってる?
返信はせず、授業開始のベルに合わせ、携帯の電源を落とした。何せ、返す情報など持ち合わせていないのだから。俺は松元の事を何も知らない――今は、未だ。