【跡部】All′s fair in Love&War
第26章 アンコンディショナル・ラブ(後編)
「千花ちゃん…!!どうしたの!?」
ややあって、まるで私の声が遅れて届いたかのように、ゆっくりとこちらを振り向く千花ちゃんの顔が、この状況に似つかわしくない程綺麗に見えて息を呑む。ぼろぼろと涙を流す千花ちゃんの顔が、煌々とライトに照らされて光る。
「…茉奈莉ちゃん、あとべに、嫌われちゃった」
「ど、どうして…?」
――有り得ない、そんな事。アイツが千花ちゃんの事嫌うなんて。跡部はいけ好かない嫌な奴だけど、千花ちゃんの事を理由なく悲しませることなんてしない、と信じていた。だって、跡部はどう誰が見たって、千花ちゃんの事を――先程の跡部の様子を思い返す。酷く傷ついたような表情を。何か思い違いがあったに違いない、のに。
「何かあったの、千花ちゃん…」
そう尋ねてみるけれど、千花ちゃんは顔を手で覆って、いよいよ声を上げて泣き出した。その肩に触れてみると、驚く程に冷えている。彼女の哀しみが、寂しさが、心に迫って来て私まで泣いてしまいそうだ、と唇を噛み締める。
「ねぇ、部室に戻って、ひとまず温まらないと…風邪を引いてしまうわ」
いやいや、と子供のように首を振り、泣き続ける千花ちゃんに、何もしてあげられなくて、せめて、その身体を抱きしめる。刺すような冷たさが伝わってきて、思わず腕に力を込める。
「千花ちゃん…っ」
どうしたって彼女には届きそうにない私の声が、もうすっかり夜になった空に溶けていった。