【跡部】All′s fair in Love&War
第26章 アンコンディショナル・ラブ(後編)
もう日の入りが迫り、暗くなってきたコート。風が吹き抜け、ふるり、と身体が震える。しかし、心臓だけはどきどきと熱を持って、早鐘を打っていた。
「よぉ、何してやがんだ、こんな所で…アーン?」
「…あとべ、」
何をしていた、と言う問に少し口篭る。なんて答えようか、まさかヒヨに告白されて、振りました、なんて言える筈がない――告白、を受けたのなんて初めてで。断りの言葉すら上手く返せなかった。私がヒヨの立場なら、やっぱり耐えられそうにない。
「ここからの景色が懐かしかったから、見納めに、と思って」
「こんなに寒いのに、一人でか」
「…そー、だね」
「…そうかよ…」
決して嘘はついていないけれど、明らかに足りていない答えに、真っ直ぐ跡部を見れなくて俯く。訊問のような問いかけに全て打ち明けたくなる、けれど、まさか寄りによって私に振られた、なんて。ヒヨだって言い広められたら堪らないだろう――そんな風に考えていた、矢先。
「松元、てめぇはっ…」
跡部の声と、同時に。がしゃん、と大きな音が響き、弾かれたように顔を上げる。跡部が手近のフェンスを殴った音だった。振り上げられた拳がゆっくりと下りていくのを瞬きも出来ないままに見つめる。こちらを見る、ギラギラと熱を孕んだ目。
「何も言わねぇんだな、留学の事も、日吉の事もだ」
その言葉に漸く、見られていたのかも知れない、と気付く。ヒヨが去ってからすぐ、間を開けずに跡部が来たのだから、有り得る話だった。違うの、と言おうとして、何を弁解していいのか分からず、やはり口篭る私に、跡部は苛立ちを隠しきれないように溜息をつく。
「まぁ、精精上手くやれよ…勉強も、男の事もな」
その言葉を最後に、身を翻し、足早に去っていく跡部をただ見送る、その後ろ姿がどんどんぼやけていく。今まで喧嘩なんて何度もしてきた、けれど、こんなに突き放すような冷たさを感じた事なんて一度もなかった。待って、という言葉が言えなくて、口はただぱくぱくと、魚のように開閉を繰り返すだけ。
跡部の言う通り、私は何も彼に伝えられなかった。そして、望み通り、怒らせてしまったんだ――そこまで理解したら、もう出ない、なんて思っていた涙が馬鹿みたいに溢れてきた。