【跡部】All′s fair in Love&War
第21章 おわりのはじまり(後編)
「茉奈莉ちゃん、ありがとう」
千花ちゃんの声に、思考から現実へと戻ってきた。ガヤガヤとしたファミレスの中、千花ちゃんのぽつりと零された声。
「…何が?」
「あたしを、氷帝に誘ってくれたこと。おかげでこうして、留学にも行けるし」
カラン、と長い事放置されたグラスの中で、氷が崩れて音を立てる。
「テニス部に、誘ってくれたことも」
――私は、本当に一瞬だけ、その事を後悔したよ。そう、心の中で返事する。でも、すぐにそんな感情は打ち消されたんだった。もう一人、心を動かす存在に出会ってしまったから。
「茉奈莉ちゃん、」
千花ちゃんの驚いたような声に、自分が泣いている事に気付く――そう、テニス部に入った後。私は、女で良かった、と強く思ったの。だって、恋慕はいずれ薄れるものだとしても、友情はそれより強くて濃いものだから。千花ちゃんの一番近くで、一番の味方でいれればそれでいいって、思ったの――
「お礼を言わないといけないのは、私の方」
千花ちゃんの事が、オンナノコの中で、一番好きだよ。その事に、依存しきっていた。
「千花ちゃんなら、大丈夫」
私達が、いや、私がいなくても。そして、私には、千花ちゃんがいなくても。貴女だけだった私の世界を、広げてくれたのは他でもない貴女。
泣きながらもにこり、と笑うと。千花ちゃんも漸く、今日初めての笑顔を見せてくれた。そして、皆との待ち合わせの時間が迫っている事に気づき、二人して慌てて店を出る。
「ねぇ、茉奈莉ちゃん。みんなには、まだ言わないでね」
きっと彼女のタイミングがあるのだろう。わかった、と頷き、跡部はどうするの、と聞こうとして、止めておいた。それも、きっと二人のタイミングがあるはず――この三年間で、随分と軟化した自分の跡部への態度に苦笑する。結局、大嫌いだった筈の跡部も、今では大事な仲間なのだ。
待ち合わせ場所で手を振るいつもの顔ぶれに気付き、千花ちゃんが走り出すのを見送りながら、ジロちゃんを探す。見つけて、起きれたんだ、と一安心して、それから。千花ちゃんに負けてられないな、と、私も決意を新たに、皆の方へと足を踏み出した。