第2章 *:.。..。.:+・゚・✽:.。..。.:+・゚・✽
【透明な日々 2】
いつも通りの夜だった
残業を終えて帰ってきた翔の為に、塩野さんが用意してくれたメシを温めて
風呂から出た翔が、
濡れ髪のままテーブルに着いて、それを食べ始める
特別な会話もなく
俺はソファーで雑誌を読んで、
穏やかな時間が流れてる
「ごちそうさま」
「あー、食器片すわ」
振り返って、声を掛けると
思いがけず、翔が俺をジッと見ていて、不思議に思う
「あのさ、話あるんだ」
「なんだよ。改まって」
ソファーから立ち上がり、ダイニングテーブルの椅子をひいた
すると、傍らに置いてた鞄を開き、数枚のファイルを取り出す
テーブルの上を滑らすように、俺の前に差し出したものは……
「社会勉強ってな割には、シフト入り過ぎだろ?」
「何の話だよ」
「学生の本業は勉強だって思うし、コレが理由ってなら相談してくれたらいいだろ?」
遠回しな言い方と
渡されたファイルの意味がわからない
「ここはセキュリティ万全だから安心だし、
付き合いのある不動産に世話してもらったから、良くしてくれるよ」
ファイルに記された物件は、学校の側にあるマンションだ
存在は知ってても、高校生のバイトぐらいで住める部屋なんかじゃない
「だから……なに?」
なんで、こんなの…?
「家賃は心配しなくていいよ。とりあえず、半年分は振り込んでおいたから」
「翔、さっきから何の話してんだよ」
苛つく以上に
言葉では表しようのない不安感が
俺の中を埋め尽くす
「家…出たいんだろ?
理由はわかってるから」
翔の顔が、哀しげに映る
罪悪感が過り、言葉が出てこない
確かにココを出る意思はあったけど……
何も知らなかったあの時と、
全てを知った今なら、意味が変わってしまう
俺がココを出るということは、
翔を拒絶するということになる
いくら違うと言っても、
それはきっと、言い訳にしかならない
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