第2章 *:.。..。.:+・゚・✽:.。..。.:+・゚・✽
【さよならの背中 3】
マスターに視線を移すと
苦笑いしただけなのに、
"いつもの"を出してくれた
目の前に置かれた琥珀色の液体を眺めながら、アイツの笑顔を思い浮かべる
秘めた想いを告白したことは
さよならだと、これが最後だと、
アイツは気付いてくれたから、笑ってくれたんだろう
必死に笑う顔が、素直に嬉しかった
お気に入りの店に連れ込んで
自分のテリトリーに囲って……
アイツが隙を見せて、俺に少しでも同情したなら、
1度だけだと誘ったかも知れない
なのに雅紀は相変わらずで……
俺を庇ったのは、憐れんでるからじゃない
俺のことを考えて、
背中を押してくれたんだ
アイツは、あの頃と変わらない笑顔で見てくれたから
カウンターの向こう側で、シェイカーを振るマスターに
勝手に話し出した
「アイツ……高校のクラスメイトで仲良くなって…
気付いたらいつもつるんでてね。
空き教室をたまり場にして
焼きそばパン取り合いなんかして
くだらないことで笑ったり、ふざけたりばっかでね。
綺麗な先生や可愛い女子の噂なんかして
ホント、毎日バカばっかやってたんですよ。
……こうして、月日が経つと
当たり前の日常は当たり前なんかじゃなかったんだなって……
あの頃は、それが幸せだなんて知らないし、考えたりもしない
当たり前なんですけどね」
「いい思い出なんですね。
久しぶりにお会いになられたんですか」
俺の言葉を、黙って聞いていたマスターが、そう聞き返した
グラスを見つめていた視線を上げ、頷いた
「そうなんですよ。
こうしてまた、会えるとは思ってなかったんですけどね。
……いろいろあったんで」
「また、お会い出来るといいですね。
お連れ様も櫻井様も、いい顔されてましたよ」
「……そう、ですかね」
空のグラスと一緒に、
雅紀が俺に残した言葉
「俺、幸せだよ。
だから、しょーちゃんも
ちゃんと幸せになってね」
そう言って、さよならをした
1度も振り返らなかった背中は
アイツの最後の優しさだと思った
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