第1章 ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚
【インナーワールド 3】
「あの、えっと……
俺の事、覚えてくれてたんですね」
「もちろん。
キミみたいに綺麗な子、なかなかいないからね」
「は?」
いきなり言われたジョークに、どう対応していいかわからない
「くふふ…そんな顔しないでよ。
とって食おうなんて思ってないから」
「はぁ…」
この人の醸し出す不思議な空気に、緊張は薄れたけど……
「でも、さ?
なんか用があったのは確かなんだよね?」
「……はい。
あの、ちょっと
人を探しに来ただけで……」
甘えたガキだと思われるだろうか
イイ歳して、帰りの遅い兄を探しに来たなんて……
だけど、他人にだからこそ、打ち明けられる事かな、とも思った
「でも、いないみたいです」
見渡すフロアに、その姿は確認出来なかったと伝えると……
何故か意味あり気に微笑んだ
「そっか~、ココにはいなかったか。残念だったね」
「はい……」
グラスに入ったオレンジジュースを一気に飲むと
椅子から立ち上がり、頭を下げた
「ありがとうございました。
この間もお世話になった上、今日もご馳走になって……」
いいからいいからと笑いながら、その人は
胸ポケットから取り出した名刺を、俺に差し出した
「せっかくの縁だしね。
何かあったら、連絡してよ。
……役に立てることあるかも知んないし」
受け取った名刺を見つめ、
名前を知ったその人に、視線を移した
「ありがとうございます。
大野さん」
もいちど頭を下げ、
大野さんが見送ってくれる中
黒服に着いてフロアを後にした
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