第1章 ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚
【点と点】
稼ぐためだけだった目的が、今じゃ楽しみに変わっていて……
ミキと教室で別れ、真っ直ぐに店に向かう
居心地のいい空間は
ディスプレイのセンスや音楽だけのせいじゃない
雅紀さんの優しくてあったかい人柄が、
店全体の雰囲気や、スタッフの仲をもいいものにしていて
人を惹きつけ、笑顔にさせる人っているんだなって知った
仕事を上がってからも
話が盛り上がると、
ついダラダラと長居してしまって
金曜日だったその日は
気付いた時には、
軽く夜10時を過ぎてしまっていた
「潤くん、片付けまで手伝わせてゴメンね?
ちゃんと残業代出すから!」
店の戸締まりをしながら、
雅紀さんが申し訳無さそうに何度も謝る
「イヤ、俺が勝手に残っただけですから!」
「とりあえず送るから!待ってて」
ひとりで大丈夫だって言うのに、
結局、断り切れなくて
雅紀さんと一緒に店を出た
鍵を掛け、シャッターを降ろして、駐車場に向かおうとした時
鞄に入れた俺のケータイが鳴った
取り出して確認すると、
ディスプレイには、“翔”と表示されていた
「もしもし?
あ、わりぃ……気付いてなかった……」
帰りの遅い俺を心配して、
何度か電話したと、翔が声を上げる
「大丈夫だよ。
送って……え?なに?」
向かってた大通りに停車していた車の、ヘッドライトが点滅する
「……え?」
ケータイから聞こえる声
同時に、車のドアが開いて……見慣れた姿が飛び込んできた
「潤くん?」
立ち止まった俺に気付いた雅紀さんが、俺を呼ぶ
「あ、なんか……
家族、…兄が迎えに来たみたいで……」
過保護過ぎる翔に苦笑いして、雅紀さんに振り返ると
雅紀さんが見てたのは……
俺じゃ、……なかった
辿る視線の先
“ふたり”を交互に見る
事態を飲み込めない中
確かに聞こえた
「しょ、う……ちゃん?」
その声に、翔が動きを止めて
ただ真っ直ぐに雅紀さんを見つめていた
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