第4章 ✽+†+✽――✽+†+✽――
【演技 1】
その日も、いつも通りだった
お互いに仕事を終えて、
気心の知れたメシ屋で食事して、
明日は休みだからって、
翔くんの酒も進むから、自然と俺もペースが早くなる
空のグラスを並べて
テーブルの僅かなスペースで、伏せてしまった翔くん
サラサラの髪から覗いた顔
伏せた瞼に
少しだけ開いた唇
微かに聞こえる寝息に、
身体の奥底から沸き上がる甘い感情
今まで、誰かの寝顔を見ながら
こんな風に感じた事あったかな……
そぅっと、
髪に触れ、整ってんなと思いながら
柔らかそうな頬を突っついた
ちょっとイヤそうに、
んっ…、と身体を捻らせる姿は
あまりに無防備で笑ってしまう
俺も調子に乗って、
ツンツンやってると
確かに聞こえた
「……マサ…キ」
伸ばした手を引っ込めて、
その覚えある名前に反応する
確証なんてない
だけど……
やっぱり関わりがあったんだなって、何処かで納得する
不思議だった
外見も中身も、
お金だって持ってる翔くんに、女の気配が全くないこと
商売柄、同性ってのにも偏見なかったから
"もしかして"とも思ったけど
そっか…きっと翔くんは
"彼"が忘れられないんだ
綺麗な寝顔を見つめながら、
どれくらい時間が流れたのか
数分だったのかも知れない
だけど……
いろんな想いを巡らすには充分で……
「翔くん…ねぇ
そろそろ起きなきゃ」
シンと静まり返った気配に、他の客はもういないのだとわかる
タクシーを呼んで貰い、酔った翔くんを無理矢理起こす
覚束無い足取りに、肩を貸すと
何の抵抗も遠慮なく、体重を預けてきた
タクシーに乗り込み、酔っ払いに話し掛ける
「……こんなじゃ、ウチ帰れないよね?
潤くん、嫌がんじゃねーの」
「やっぱ、そうかな~」
ケタケタ笑いながら、
呆れる俺に、翔くんがいきなり叫んだ
「運転手さんっ
そこ!そのホテルで停まって~」
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