第4章 ✽+†+✽――✽+†+✽――
【ボーダーライン 1】
とりあえずの一杯をオーダーし、直ぐにネクタイを緩める彼
社交的な優等生から一転
無愛想に身体を椅子に預けた
「どしたの?
機嫌悪いねぇ」
クスクス笑いながら、顔を覗き込むと
"聞いてよ"と言わんばかりに、今日の出来事を話し始めた
「……ってさ?
俺は思うんだけど!
ちょっと聞いてる?智くん!」
「聞いてるよ(笑)」
「そりゃ、俺はまだ実績ないけどさ…」
ブツブツ言いながら、
子供っぽく愚痴ったのが恥ずかしくなったのか、
唇を触りながら、目線を逸らした
「でもさ、翔くんならきっと大丈夫だよ」
「……なんか、智くんが言ってくれたら、そんな気がしてくる」
「んふふ、そりゃ良かった」
店のオーナーになって、会う機会が格段に増えて
気付いたらいつの間にか、お互いに名前で呼ぶようになってた
こうして飲みに行くことも珍しくない
今まで俺の周りにはいなかったタイプの人間
興味本意の対象ってだけだった……
だけど、共有する時間が増える度に、気付いた事があるよ
俺も、翔くんも
"温度"を知らない
「ちょっと飲みすぎじゃないの?」
「大丈夫だよ。明日は休みだし…」
「誰が介抱すんの。
俺は明日も仕事だっつの」
珍しく、ペースが早い翔くんのグラスを取り上げる
きっと仕事以外に、なんかあったんだな
変化に気付きながら、
どう切り出したらいいか迷ってると
独り言みたいに、翔くんが呟いた
「潤に
彼女が出来た」
「へ?」
いろいろ考えてたのが、
一瞬で吹き飛ぶ
「アイツ…
まだ中学生だよ?」
「ってか、なに…?
そのボヤキ!」
「いいだろっ…」
お腹を抱えて笑うと、
ますますバツの悪い顔して、
取り上げたグラスを奪って傾ける
そんな翔くんを見て、
また思う
温度を知らない俺らは、
やっぱり、何処かで欲してて
自分でも気付かない所でお互いに依存してる
俺には家族なんていねーけど
翔くんには、
小さな家族がいた
.