第5章 心をみつめて
なお目線
『自分で頼んだけど…頼んだけど…………怖い』
私はあれから、秀吉さんと秋野と天主へと足を向けた。
目の前には脇息に身体を預け、鋭い眼を向けている信長様。
「して、何用だ」
低く落ち着いたでも、威圧感がある声が静かな天主に響く。
「某から説明…」
「貴様には聞いておらん」
「はっ!」
秀吉さんの言葉はあっという間に一蹴される。
『私が話すの待ってる…んだ…でも…』
さっきの決意は、霧散したかの様に消えていく。
また、静かな時が一刻一刻と進んで…。
「貴様が何も言わぬつもりなら、こちらから聞いてやる」
信長様は身体を起こし私を睨みつける様に見る。
「貴様はどこから来たのだ」
聞かれてるのはわかってるのに、口が動かない。
「なお様。深呼吸してください。大丈夫ですから…」
秋野がそっと私の背中を撫でてくれた。
『私…息するの忘れてた』
ゆっくりと深呼吸をして、信長様を見る。
心なしか、少しきつい眼が緩んでいる様な気がして、ホッとして言葉を繋ぐ。
「…私は500年後の世界から来ました。」
「どうしてここに来た。」
「わかりません」
「では、どの様にここに来た。その世界では、この様に誰もが時を越えるのか?」
「いいえ、この様なことは当たり前にあることではありません。
私自身タイムスリップしてしまった事を、未だに受け入れる事が出来ないでいます」
「たいむすりっぷとは何だ」
「この様に時を越える事を私のいた所ではそう呼びます」
「貴様は、その世界にいつか帰るのか?」
「どの様にしたら帰れるのかわかりません」
「では、帰れるとしたら帰るのか?」
今まですらすら出て来た答え。
それは急に止まった。
『帰れるとしたら…私は帰りたいんだろうか』