第34章 不安
なお目線
「なお!」
再び前から声が聞こえる。
『来てくれたんだ…』
逢いたいと思った時に来てくれたことが、嬉しくて切なくて…
「信長様!」
今度ははっきりと、大好きな人の名前を呼んだ。
すぐにその姿が見える。
駆け寄ってきて、そのままその大きな腕の中に閉じ込められる。
「なお…」
「信長様…」
お互いに濡れた着物越しに、暖かな温もりがじわりと移る。その温もりに止まった涙が溢れそうになって、胸元に顔を埋めた。
「…ごめんなさい。また、心配掛けてしまった」
強く抱きしめられる感覚に、また不要な心配を掛けたのだと、感じてそう告げた。
信長様は少し体を離すと、あごに手をかけ上を向かされる。
そして、瞼にそっとキスをされる。
「…本当だ。何度心配をかければ気がすむのだ」
少し怒ったようにそう言いながら、優しい顔が見えて…今度は唇にキスが落とされる。
「身体は冷えておらぬか…」
体を離さないまま、そう告げられる。
木の下にいた私はあまり濡れていない…。
「大丈夫です…木の下に居たからあまり濡れてないから…信長様こそ大丈夫ですか?」
この雨の中駆けてきた信長様が心配で、そう声をかけた。