第2章 心を閉ざして
なお目線
「コホッ。」
喉に違和感を感じ咳が出る。その咳に意識が急激に浮かび上がる。
『あれ?』
目を開けると見慣れない天井が見える。
『ここどこ?』
声を出したつもりが引っかかった様な感じで、言葉にならなかった。
頭を動かそうとすると痛みが走り、諦める。
もう一度目を閉じて、何があったのかを思い出す。
『…そっか、死ななかったんだ。夢でもなさそうだし……』
「ガラッ」
音がして目を開ける。
「…目が覚めたみたいだね。」
声が聞こえたが頭を動かす事はさっきの痛みを思い出し、出来ないでいる。
「…まだ、痛いんでしょ。そのままで良いよ。」
声の主はそう言いながら、私の顔を覗き込む。
「はじめましてだよね。俺の事は家康と呼んで…。あんたの事は、秀吉さん達から聞いてるから…」
「あっ。コホッコホッ…。」
「無駄に喋んなくて良いよ。3日うなされてたんだから……」
喋ろうとするとやっぱり上手く喋れず。
咳をしてしまった。
『でも…無駄って…。』
「…そんな顔しないで…いじめてる訳じゃない…。傷見るからね。」
『少し声色が優しくなった?』
そんな事を思っていると、布団?がめくられる。
「あっ…っつ!」
着せられてる着物に手がかかるのが見える。
無意識に身体に力が入り痛みが身体中を走る。
「……力抜いて……酷い事はしないから。着物に触ってるのは女中だし。傷は確認しなきゃいけないから……。秋野。顔を見せてやって…」
私の顔の前に、優しい表情の年上と思わしき女性があらわれる。
「なお様。秋野と申します。なお様のお世話を任されています。お見知り置きを。さあ、身体の力を抜いてください。」
そう言うと、私の頰にそっと手を置いてくれる。
その手の暖かさに、ゆっくりと身体が緩むのを感じた。
「なお様。家康様は傷を確認されるだけですから、少し恥ずかしいかも知れませんが目を閉じてれば大丈夫ですよ。手当は私が行いますから安心されてくださいね。」
そう言うと秋野さんは私の瞼に手を置いてくれ、私は目をゆっくりと閉じた。
「そのまま、力を抜いてて下さいね。私しか触れませんから…。大丈夫ですよ。」
優しい声色を聞きながら、優しく暖かい手を感じ、私はまた意識を手放した。