第24章 許されぬ想い
第三者目線
「沙耶様、もうすぐ安土です」
秋野は沙耶に声をかけた。
城下に入ると賑やかな声が聞こえてくる。
「謙信様。安土もとても賑やかですね」
沙耶はあちこちに出ている露天や店を見ながら、キラキラと目を輝かせている。
「お時間があれば城下をご案内させて頂きます」
その様子を見て、秋野は声をかけた。
「謙信様。行ってもいい?」
上目遣いに謙信を見上げ、沙耶が呟く。
「あぁ…なおが落ち着いたらな」
謙信の呟きに沙耶はにっこりと微笑んだ。
「信長様が広間でお待ちです」
城に着くと三成の姿が見えた。
「わかった。上杉殿、沙耶姫様。こちらです」
秀吉は各々の馬を家臣に任せ、広間へと急いだ。
………………………………
信長は沙耶の姿に息をのむ。
なおが一瞬現れたかと思うほど、その面差しは似ていた。
親子なのだから当たり前だと、思ってもその顔から暫し目を逸らさないでいた。
「織田様。娘を助けて頂いてありがとうございます」
沙耶はにっこりと微笑む。
「俺は助けた覚えはない…寧ろ助けられたのだ」
「本能寺か?」
隣の謙信は敵陣であるにも関わらず、ゆったりとした雰囲気で信長に問う。
「あぁ…」
そう答えながら…それだけではないなと心の中で呟く。
「まぁ、どうでもいい。なおはどうした」
謙信はさも興味がないというように、周りを見渡す。
「なお様は居室におります」
秋野が答える。
「会いにいく、案内しろ。貴様の顔をこれ以上見ているのは耐えられん」
謙信は表情は変えないが、明らかな棘を言葉に含ませる。
「あぁ、同感だ…秋野案内しろ」
「分かりました。こちらです」
秋野が立ち上がると、謙信と沙耶はそれに続き広間を出た。
「俺は天主におる」
信長はそう短く告げると立ち上がる。
「お屋形様!お屋形様はなおにお逢いにならないのですか?」
秀吉が問いかける。
信長は振り返らず無言で広間を出る。
「お屋形様…」
背後で聞こえる秀吉の声。
「…逢えるわけなかろう…俺が…」
小さく呟き、さまざまな想いを振り切るかのように、羽織を翻し天主へと戻っていった。