第24章 許されぬ想い
第三者目線
「お屋形様。なおを安土へ戻す算段がつきそうです」
家康達が出立して数日後、天主にいた信長の元へ訪れた秀吉はそう報告した。
信長は表情のない顔で、「そうか」一言告げると書簡に目を落とす。
最初は、今迄に見たことのない程様々な感情を露わにしていた信長だったが、ここ数日は以前の様に粛々と債務をこなしていた。
「…後、昨日こちらに送られてきた、なおに乱暴を働いた者達の処分はいかが致しましょう」
「…会いに行こう」
信長はすくっと立ち上がり、歩き出す。
「お、お屋形様…お待ちください」
秀吉は信長の突然の行動に、慌てて後を追う。
「お屋形様…」
牢には光秀がいた。
「光秀…吐いたか?」
秀吉はいつもと違う厳しい表情で問うた。
「あぁ…今しがたやっとな。なかなかに粘ってくれた」
にやりと笑うと、両手足を拘束され無様に転がった男に水をかける。
「うっ…」
男は短く呻ると目を緩々と開ける。
目の前にいる信長の顔を見ると、息をのみガタガタと震えだす。
「こいつが主導でなおを…」
光秀の言葉に、信長の緋色の瞳がいつにも増して輝く。
「もう…此奴に用は無いか」
冷たく、揺らぎもない呟きに、秀吉と光秀まで気圧される。
「…どの様に致しますか」
光秀が問うた。
「殺すか…」
その一言に、ガタガタと震えていた男は目を見開く。
「つっ…殺せばいい!!俺は顕如様の為に死ぬるなら本望だ!
最後に宿敵である貴様の女も汚してやった!自ら腰を振る厭らしい女をな!」
「言いたいのは…それだけか」
信長はにやりと笑い短刀に手をかける。
男の前にしゃがみ込み男根を手に取る。
「貴様に死など生温い…生きて苦しめ」
次の瞬間、短刀が男根を襲い、余りの痛みに声にならない叫び声をあげ、男は気絶した。
「秀吉。此奴を死なせるな。
光秀。他の奴らも同じ様にし、男娼宿にでも連れて行け…」
「「はっ!」」
信長はその声を聞くと、男を一瞥し牢を出る。
そのまま天主へ戻ると、書簡に目を通し始める。
ふと外に目をやると、きれいな青空が広がっていた。
その空に惹かれる様に、天主の張り出しへと足を向けた。
「なお…」
久しぶりに呼んだ名は…風に拐われ、一筋の雫と共に城下へと運ばれていった。