第22章 堕ちる
第三者目線
「信長様!!!」
「どうした…」
軍議の途中、伝令が飛び込んできた。
「お屋形様の前だぞ!」
秀吉が声を荒げるのを手で制する。
「なお様が…」
その後の言葉に…身体の芯が凍りつくほどに冷えていく感覚が、信長を襲う。
一緒に居た、秀吉、政宗、家康も、言葉を失う。
「誰だ…。誰がなおを…」
政宗の呟きに皆の止まった時が動き出す。
「光秀に伝令を送れ…。秀吉、政宗、貴様らにこの戦任せる。家康俺と共に来い。なおを探す」
その言葉に、信長にとってのなおが、どれ程の相手なのか…それを武将達は改めて感じた。
『なお…なおどこにいる。すまない。俺が…俺と…』
冷えた身体は、馬でかけても暖まる事はなく、心を引き裂かれる様な苦しみが、益々身体を冷やしていく。
心の中でなおを呼びながら、闇夜をかけていった。
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「今日は攻めて来ぬな…つまらん」
謙信は面白くなさそうに、前線から離れる。
「謙信様…どうなさったのですか?」
本陣に戻ると、怪我人の手当てをしていた沙耶が駆け寄ってくる。
「お怪我なさったのですか!」
そう言って身体を触る沙耶の手をそっと止める。
「大丈夫だ。こんなつまらん戦やる気がないから、戻ってきただけだ…」
心底つまらなそうに、謙信は言った。
「謙信様!」
いつも声を荒げる事のない佐助の声に振り向く。
「どうしたんだ。もう、俺は何を言われようと戻らんぞ」
またいつもの苦言かと思った謙信は釘をさす。
だが、佐助の口から出てきたのは、思いもよらぬ言葉だった。
「何!そうか、ならば今日の戦納得いく…」
暫く思案すると
「信玄を呼べ」
短く告げた。
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「謙信。戦の最中に何事だ」
「なおが何者かに攫われた。軒猿に捜索を申し付けた。こんなつまらん戦は終いだ」
謙信は信玄に告げる。
「そうか…だからこの状態か…信長が出て来ないから、何かあったかと思ったが…だが、どう終わらせる」
「向こうも、今引いたところで深追いはしないはずだ。引く。
俺は一足先に沙耶と城へ戻る」
「…分かった。沙耶を支えてやれ」
信玄はそう言うと、本陣を後にした。