第2章 「今宵の『アリス』が君だったんだ」
「さて、僕の簡単な説明は終わるよ。この世界の話だ。君は今日から『十六夜由香』と言う名前を2年間捨てて生きてもらう。」
突然、ルーイの表情が硬くなった。今から話す言葉は絶対だと言うように。
ただそれ以上に驚いたのは彼の『十六夜由香と言う名前は捨てて生きてもらう』と言う言葉。
2年間も捨てて生きる!?仕事は、家族は、友達は、自分の部屋は!?
「この世界はワンダーランドと言われる世界でね、君たちの世界のわくわくした気持ちや夢を吸って成立している世界なんだ。」
__わくわくした気持ちや夢…?
「君たちは現実では成立できないあこがれとか夢とかがあるだろう?その気持ちが具現化した世界だと思ってもらってもいい。ただ問題なのが15年前その吸う機能が停止してしまったんだ。」
__何が問題なの?
「今まで全員から均等にもらっていた夢がなくなり、ワンダーランドは飢饉や土砂崩れなどが起きるようになってね。夢を吸っていた女王が亡くなり、吸う手段がなくなったってのもあるんだけど。」
「そこでワンダーランドの住人が考えたのが、現実世界から一人の生贄の『アリス』を連れてくる事だったんだよ。」
__生…贄…?
「『アリス』は放題なエネルギーを出す道具になる。
__そして、今宵の『アリス』は君だったんだ。」
「その『アリス』を連れてくる計画の実行日がワンダーランドにとって2年に一度の日、満月なんだ。満月では、ワンダーランドと現実世界の境界線が曖昧になる。」
__つまり、今日がその実行日だったって事?
「ああ、そうさ。この世界を信じていない現実世界はともかく、ワンダーランドから現実世界に行き、戻ってくるのはとても容易なんだ。向こうの世界を信じていないとね。」
ここで、耳元でザッと言うノイズ音が混じる。とても耳障りで不快な音だけれど、その一回で収まったように感じた。