第1章 「月って綺麗だなって思いますか?」
そこで出会ったのか。
記憶がなくて悪かったけど、目の前にいる男の人は私を見て笑っていた。
__「月って綺麗だなって思いますか?」__
そう言って笑う男の人。
恰好からしてまず怪しい。緑と茶色のシルクハットにウサギの耳がついたような感じで、緑のロングジャケットを羽織った人。
そして何より、耳と一緒の白の髪に青い瞳。
外国人らしい見た目でいわゆるイケメンと言う部類だろう。
ただ、あまりにも流暢な日本語。怪しい恰好。謎の顔立ち。……怪しい、怪しすぎる。
答えようとしてずっと迷っていた。すると、男の人は顔を歪めて私の腕をいきなり掴んできた…!?
「おかしいなぁ。アリスのはずなんだけれど。」
そう言って、私の顔をまじまじと見る男の人。
気持ちが悪い。そう思って手を振り払う。
「…っ、何するんですか!」
「だから!答えてよ!月って綺麗だと思うの!思わないの!」
逆ギレされた。いや怒るのこっちなんですけど!
「思いますよ!あー、お月様って綺麗だな!」
もうヤケクソになって叫んだ。誰か助けて、この人怖い。
コスプレの類なんだろうけど、あまりにも変人すぎる。もう嫌、明日から外にも出れない。
「じゃあ、教えてよアリス!君の名前はっ!」
男の人は手を放すどころか、手の力を強めて笑いながら叫んだ。
『アリス』…?アリスってあの…あ…
「私の名前?いざよ…」
その後の事は覚えてない。