第1章 「月って綺麗だなって思いますか?」
「月って綺麗だなって思いますか?」
そう聞かれて「いいえ」と答えるのはきっと少ないんだろうな。
私は月が好き。月ってなんだか、吸い込まれるような魅力があるから。
__でも、私の目の前で笑うこの男の人にどう答えようか迷う自分がいる。
まるで、「聞いてはいるけどこの答え以外は許さない」と言われているような感覚がある。
私、十六夜由香は東京の企業に勤めるただのOL。
今年就職したばかりで不慣れな仕事もあったがとりあえずは慣れてきて充実した仕事ライフを送っていた…ハズだった。
最悪なのが、今日大きな仕事でのミスをしてしまったのだ。
本当は上司のミズだったのだけれど、私に押し付けたせいで怒られてしまった。
信頼し頼りにしてたはずの上司からの裏切り。
結局は上辺だけの付き合いだったことがわかった見てるだけの同僚への失望。
身に覚えのない事で怒られてしまう事の屈辱感。
全ての恥を受けた私は、半べそになりながら住んでいるアパートに戻っていた。