第10章 槙くんと名前※裏注意
槙「ここ、座って」
ぽん、と槙くんの手が示す。私はギシ、と音を立てておずおずと腰を下ろした。
泉「槙くん?」
槙「なあ…そんな辛い顔しないで」
泉「…え?」
槙くんは私の手を握り、その手にぎゅっと力が篭った。
槙「あんたが仕事のことを理解してないとは思わない。でも、きっと俺の何かが悲しませてしまってるんだろ?情けないことに、俺には分かんないんだ…だから、教えてくれないか?」
槙くんの眉毛が切なげに下がり、その赤い瞳には戸惑いの色が映っていた。
泉(…言っても…良いのかな)
槙「い、言いたくないなら無理にいわなくても───」
泉「…名前を」
槙「…?」
泉「名前を呼んでほしいです!!会社の人は名前で呼んでたのに…私の事は呼んでくれないのが…寂しいんです」
槙くんが今どんな顔をしているのか見るのが怖かった、そんな些細な事だと言われたらどうしよう、私は震える唇を噛み締めて下を向いた。
泉(呆れられてるのかな)
いつまで経っても返ってこない返事に、私の不安は募る一方だったその時、
槙「…怜」
怜「!!」
小さく呟かれたその声に、私は思わず顔を上げる。そこには頬がほんのり赤くなった槙くんの顔があった。
槙「怜…ごめん、俺のせいでずっと不安にさせてたんだな」
槙「正式に付き合い初めて、どこで呼び方を変えようか迷ってた時だった。あいつらも含めて飲んでいた時に、羽鳥が言ってたんだ、"怜は男性に名前で呼ばれるのは少し苦手だ"と」
怜「え?私いつそれを…あ!!確かに言ったような…」
槙「なんで名前で呼ばれるのが苦手なんだ?ほんとうに苦手なら俺もやめる」
怜「あの…それは…さっき言ったことと矛盾しちゃうんですけど、少し緊張しちゃって…」
怜(ほんと、自分から呼んでほしいって言っておいて何言ってるだろ私…)
怜「で、でも!私は槙くんには呼んでほしい…です」
何となく恥ずかしくなってベッドに横になった。すると槙くんもふうっと息をついて私の隣に体を倒した。