第10章 槙くんと名前※裏注意
お風呂から上がって、リビングへ戻ると槙くんは誰かと電話をしていた。所々聞こえる単語から仕事関係だと言うことが分かったので、邪魔をしないように少し離れてソファーに腰を下ろす。
泉(休みの日でもやっぱり忙しそう…今日泊まってくけど大丈夫なのかな)
改めて玩具メーカー会社の社長ということを思い知らされて、申し訳なさと寂しさを消すようにビールをぐいっと喉へ通す。
テレビの音に混ざって聞こえる槙くんの声を自然と耳に流していた。
槙「ああ、ハルカの事か…それは…」
いつもなら気にならない単語に私は反応してしまった。
槙「じゃああの資料は俺が直接マユミに渡しておく」
泉(分かってる…これは仕事関係の事だって。でも…それでもどうして…)
槙くんから女性の名前が紡がれたことが、とても悔しくて悲しかった。槙くんは話が終わったのか、ケータイをしまい私の方へ向かってきた。
槙「悪い、折角の休日に仕事の話なんかして」
槙くんは私がその事を気にしていると思ったのか、申し訳なさそうに私に謝る。
泉(違う…違うんだよ槙くん…)
泉「大丈夫!忙しいんだもの、気にしないで!」
溢れてきそうになる涙を堪え、ビールを飲んでまた笑った。涙を堪えるのは今の仕事でだいぶ出来るようになったはずだ。
槙「……」
槙くんはじっとこちらを見つめていた。そして突然槙くんはテレビを消して私の手首を掴み、寝室へ連れていった。