第10章 槙くんと名前※裏注意
正式に槙くんの恋人になり、互いの仕事の休みの日には何回かデートに出かけたりもした。恋人として、槙くんの境界線に少し踏み込むことが出来たと思う。
ただ私は1つだけ踏み込めていないことがある。
泉「槙くん、シチュー出来たよ」
槙「ああ、ありがとう。いい匂いだな」
そう、呼び方である。初対面の時からずっと名字で呼んでしまっている。
槙「泉、何飲む?」
泉「そうだなぁ…ビール飲んでいい?」
槙「はは、昨日買っておいて良かった、ほら」
そして彼氏である槙くんもまた、私のことを「泉」とか「あんた」と呼んでいる。
私は今更お互い名前で呼び合おうと言えず、今日もこうして何気ない会話をしながら槙くんのマンションで夕食をとっている。
泉(不満…があるわけじゃないけど…)
モグモグとシチューを食べながらぼんやりと考える。
槙「…どうかしたか?」
泉「え?」
槙「なんかぼーっとしてたから」
泉「あー、シチューにもうちょっと牛乳入れればよかったかなぁーって思って」
槙「そうか?俺は十分美味しいと思うけど…でも牛乳なら多めに入れても体にいいからな」
咄嗟についた嘘は自分的にはナイスだった。そして牛乳大好きな槙くんが少し嬉しそうに牛乳をぐいっと飲み干した。
泉(今のままでも十分カッコイイのに…やっぱり身長のこと気にしてるんだなぁ、そんな所も可愛いけど…)
もしこれで槙くんの身長が2m近くあったとしたら、イケメンでハイスペックな槙くんが、今以上にモテてしまう。私としてはそのままの槙くんがいい、と心の中で思いながらまた他愛もない会話を続けた。