第20章 ep20 我慢
ーーー・・・
その日は岩泉と共にりこを迎えに体育館まで戻り、3人で帰ることにした。
「何か久々だね、こうして三人でいるの」
「確かにな。昼飯は一緒に食ってるけど、花巻とか松川とか、他の同期も集まって来るようになったから、3人なのは本当久々だな」
片想いしていたあの頃、彼女の事が知りたくてたまらなかったな・・・と及川は思い出す。
移動教室、体育でのグラウンド、全校集会、
気づけばいつもどこかにその姿を探していた。
あの頃は人前では笑ってたけど、ひとりになると、よく悲しげな顔をしていたから・・・
この腕に抱きしめて、少し力を入れれば壊れてしまいそうな存在だった・・・
けれど、彼女の過去を教えてもらってから、及川にとって、
りこは本当に護りたい存在なんだと自覚した。
マネージャーをやってくれるようになり、本当に表情が明るく、よく笑うようになったけれど、
まだその心の奥には、
人を信じることへの怖さが、あるような気がする・・・
(だから、先へ進めてないのかな、俺も・・・)
今一歩進んで、
りこの気持ちを確かめたいのに、できない・・・
彼女は、もっと自分が触れてもいいのだろうか・・・・
ーーー・・・
「じゃあな、及川、りこ」
「うん、また明日ね、一ちゃん」
「お疲れ、岩ちゃん、またね〜ん」
駅の改札を出ると、及川はりこを振り向き、そっと手を差し出す。
りこはその手を、きゅっと抱きつくように握る。
(可愛い・・・)
2人きりになるとできる、恋人らしいこと。
みんなの前では絶対見せないけれど、こうして寄り添いながら歩く時のりこの笑顔は、本当に可愛い。
(あいつらには絶対見せてやんないけどね!)
主務としての仕事は良くこなしてくれている。
チームにとっても彼女の存在は必要性のあるものになっている。
彼女のアドバイスは的確だし、チームメイト全体をよく見てくれているから。
だからみんな好いているし、話しかけに来るけれど、その好意に気づいていないのか誰にも媚びないのがりこ。