第19章 ep19 前進
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「ん?りこは?」
帰宅しようと、先に部室の外に出て門の所で岩泉が待っていると、来たのは及川だけでりこの姿は見当たらなかった。
「監督に呼ばれて、早速インターハイ予選の書類の申し込みとか、教えて貰うって」
「へぇ。熱心なもんだな。さすが体育会系女子、やると決めたらとことんだな」
2人で並んで歩く。
「さっき渡の自主練付き合ってやってたり、他の部員もあいつに話しかけてたし、結構打ち解けんの早い気がすんな」
「絶対あいつら下心あっから!」
ギリギリと堪えていた歯ぎしりをし、及川は言う。
「矢巾とか俺に似た匂いを感じるから危ないんだよね〜。悪いやつじゃないけど」
「ま。彼女をマネにするってことはそれなりに我慢も節度も必要だな。人前でいちゃこらすんなよ」
「わーかってるよ!つーかりこが人前でいちゃつかせてくれる訳ないじゃん・・・」
はぁ・・・と及川はため息をつく。
「でも、前進、できた気はするかな。りこも、俺たちも・・・」
長い、寒い独りの冬を超えて、
やっと回りはじめた歯車・・・
新たに一歩踏み出したりこの表情は、
昨日よりも格段に明るかった。
「今は、マネージャーをやりたいって言ってくれたりこの事を、見守っていこうと思うよ」
もう二度と、りこは道をそれたりしない・・・
だってあの子には、自分がいるからね・・・
そんな風なことを言い出しそうな及川に、岩泉は言った。
「とりあえず何か腹立つから一発殴らせろ」
「なんでさ!りこを救えんのはお前しかいないって言ってくれたじゃんか〜!」
及川は、殴りかかろうとしてくる岩泉を必死に制した。
そんな穏やかな、春の近づく昼下がりだったーーー・・・