第19章 ep19 前進
「岩泉〜お前、意外と優しいとこあんだな」
「うるせ、早くパスすんぞ」
花巻が岩泉に絡んでかかるが、岩泉は気にした様子もなく練習に打ち込む。
(真面目だな、一ちゃん・・・)
言われた通り、今日の練習は場慣れするために見学に徹した。
ーーー・・・
「ありがとうございましたーっ」
締めの挨拶と共に練習が終わり、自主練となる。
すぐにコートに向かったのは、新2年生の渡くんだった。
向かいのコートに台を出してもらって、その上にチームメイトが乗る。なるほど、そこから打ってもらってレシーブ練習がしたいんだな、と思った。
すると、セッター位置に矢巾くんが立ち、ここに上げてこいよ、と目印になってくれる。
しばらくその練習を見ていると、ある事が気になった。
(やっぱり少しフェイントが苦手みたい・・・)
ランダムに強打とフェイントが織り込まれるなか、やはり完全に強打と思っていた時にフェイントされると、反応が遅れている。
「渡くん、だっけ・・・?」
「はいっ、えっと・・・」
「りこでいいよ。あのね・・・」
渡は体の動きを止め、近づいてくるりこを見た。
(綺麗な人だな・・・)
背は少し自分の方が高い。
綺麗な瞳に見つめられると、自主練中にも関わらず少しドキッとしてしまう。
そんな渡に気付かず、りこは気になった点を口にする。
「渡くん、ディグレシーブは凄く吸収もいいけど、意外とフェイント苦手でしょ?」
少しイタズラっぽい顔をして、りこは渡を見上げた。
「は、はい・・・どうも強打を構えすぎてフェイントへの反応が遅れてしまって・・・」
「ちょっと後ろに重心がかかってる気がする。あんまり前重心過ぎるとだめだけど、渡くんはもうちょい前に意識持っていった方が良くなると思うよ!」
「は、はい!ありがとうございます!」
少し渡の顔が赤いことに首を傾げたが、それから少し前重心を意識した渡は先程よりもフェイントが上がるようになっていた。