第14章 ep14 孵化
「あの子、今年転校してきた子だよな?前どこいたんだっけ?」
「あっこって言ってたべ、ほら、よく春高のテレビ出てる関西の」
「え!あそこだったのかよ!バレーめっちゃ強いじゃん」
隣の男子生徒の会話が耳に入る。
「バレー上手いし、美人だし、スタイルいいな。彼女にしてぇ〜」
その一言に、今まで聞き流していた及川は堪えきれずばっとその男子生徒たちの方を見た。
「やめろ及川」
すぐに岩泉に頭を掴まれ、前を向かされる。
当たり前のように彼らはりこと及川の関係を知っているわけが無い。
付き合ってもいないため、何を言おうが自由だが・・・
(絶対に譲るもんか・・・・・・)
「何かりこ、さっきよりもスパイク強く打ってんな」
岩泉の一言に、及川は試合に向き直る。
岩泉の言うように、先程まで軟打でうまく相手のいない所に打っていたが、相手のクラスの後衛にはバレー部が3人固まっているため拾われてきていた。そのため、先程よりも威力を増して強打に変えてきていた。
「やっぱあいつ上手いな。当たり前だけど、小学校の時以上に器用になってる」
「そうだね、それに・・・」
やっぱり、楽しそうだ
笑っているとかではなく、一生懸命にボールを拾って、打って、喜んで・・・
額の汗がひかり、それを腕で拭う仕草が美しく、
いつの間にか髪の毛を耳にかけて、本気の目をしてプレーしている。
今まで見た中で、やはりこの時が、バレーに携わっている瞬間がりこを1番輝かせていた・・・
ーーー・・・
成り行きで任されたポジションはレフト。
りこが今まで担ってきた役職だ。
1番トスが多く上がり、1番みんなにマークされるポジション、りこはレフトエースだった。
やっていくうちに、少しずつ、感覚が蘇ってくる。
(ボールが腕に当たる衝撃、離れていたから、少し痛い・・・でも嬉しい)