第12章 ep12 願望
ほんのり上気した頬、潤んだ瞳、
17歳とは思えない雰囲気のあるりこの小さな唇が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「今度、バリボーを一緒にみてくれる・・・?」
(・・・・・・・・・・・・はい?)
生唾を飲む程の色気を放っていた空気を吹き飛ばすような発言に、及川は目を点にする。
(なんで・・・なんでここでバレー雑誌!?つかいつも昼休み読んでんじゃん!)
色々とツッコミを入れたくてたまらないが、ぐっと堪えて笑顔を作る。
「う、うん、いいけど、なんで急にバリボー?もっと他に色々あったよね?色々」
キスとかギューとかXXXとか!もっと男女で楽しめることいっぱいあるよ!と及川は心の中で叫び通すが、
りこは、私ね、と言葉を紡いだ。
「及川くんがバレーの話をしてるの、好きなんだ。活き活きとしてて、キラキラで・・・バレーが好きなんだって、わかる」
この選手のハンドリングは最高とか、この選手のトスワークのこういう所、俺なら考えついてないなとか、思ったことをありのまま、
子供のように止まらない、全部全部楽しそうに、夢でも話すような及川をりこは隣で見ていた。
本当にバレーが好きで、夢を追いかけている彼の姿に、りこは惹かれた。幼きあの日から・・・・・・
「だから、これからも及川くんの隣で、夢を追いかける及川くんのこと、見ててもいい・・・?」
それがりこの願いで、望むものだった・・・・・・
「あぁ、もう・・・」
(もう、降参・・だよ・・・・)
敵わない、りこには。
そんな風に見られていたなんて、舞い上がる他にないじゃないか。
りこは無自覚だけれども、完全にこの子にペースをかき乱されている自分がいる。
五年ぶりに会ったときから、どんなアプローチもかわされ
どんと突き放されたと思えば、笑ってくれて
たくさんの告白を受けながらも、自分を受け入れてくれて
バレーをする自分はかっこいいと、褒めてくれて
隣で夢を追いかける姿を見たいと言ってくれる
こんなにも人に心乱されることなんてなかった・・・