第12章 ep12 願望
ピーンポーンと通い慣れた家のインターフォンを鳴らした。
家の中からはい、と返事をする声が聞こえる。
及川はもう一度身なりを見返し、変わった所がないか確認する。
ガチャりと扉が開き出てきたのは、五年前よりも少し目尻が下がってりこの母だった。
「あら!徹ちゃん、今日も来てくれたの?いつもありがとうねえ」
「こんにちは、りこ、具合どうですか?」
手土産を渡しつつ、りことよく似た母親に招かれるまま家の中へ入るーーー・・・
「りこ?徹ちゃん、来てくれたわよ?」
りこの自室の前で、母親がノックして彼女を呼んでくれている。
「寝てるようでしたら、無理はさせられないし、俺はこれで・・・」
そう口を開いた時、ガチャりと部屋の扉が開いた。
「及川くん・・・?」
突然の訪問者に驚いているりこ。
淡いピンク色のパジャマを着て、額には冷えピタを貼っている彼女は、つい先日から風邪をひいて寝込んでいた。
「やっほ、りこ、具合はどう?」
「私は・・・」
「昨日から微熱まで下がってきて、ご飯も食べられるようになったのよね!大丈夫、良くなってるわよ」
「何でお母さんが答えるの・・・」
こんなイケメンな男の子と喋る機会ないも〜んと、りこの母は茶目っ気たっぷりにウィンクする。
「もう・・・・・・良くなってきてるから、とりあえず、中、入る?」
「あ、うん。お邪魔しまーす」
りこに促され、及川は彼女の自室に入る。
背後で、お母さんジュース出してくるわねーと言う声が聞こえた。
初めて入るりこの部屋。無駄なものは置いていないけれど、年相応にキャラクターのぬいぐるみがベッドの隅にあったり、要所要所での可愛らしさが際立つ。
(あ、これ・・・)
勉強机の上には、バレーの写真がいくつも飾られてある。
小学校のジュニアチーム時代の集合写真、
これは、中学のだろうか?ハチマキをしたユニホーム姿で整列している写真、スパイクを打とうとしている躍動感ある写真、様々な勇姿のりこがそこに並べられていた。