第11章 ep11 繋心
「みんなと同じように、帰りに寄り道したりして普通の高校生みたいな生活送りたいなって、思う時もある。だけどさ」
そこまで言うと、りこはぎゅっと包み込んだ手に力を込めた。
「試合の苦しい時の1本決めた時、フルセットで相手がしてたリードを自分のスパイクで、サーブで決めてひっくり返した瞬間、そしてそれに勝った瞬間、大会で優勝した瞬間には・・・・・・今までの何十時間、何百時間の苦しい時を上回る歓びがあるってことを、普通の高校生は知らないよ?」
「!!」
りこは今にも泣きそうな顔で、でも、真っ直ぐに及川を見つめ、そして強く強く微笑んだ。
りこの強い眼差しは、同じ経験を、同じ思いをしてきたと物語っていた。
「それを知ってる及川くんは、ずっと、ずっとかっこいいよ」
何度も嫌になって、投げ出したい、もう辞めてしまいたいと思う事があっても、その、"歓びの瞬間"があるから、やってきた。
周りに何と言われようと、大切な人に嫌われようと、
バレーボールだけには、背を向けられなかった。
それを、今、目の前のりこは、
わかっているよ、と言うようにこちらを見つめ返している。
気付けば、及川はりこの体を引き寄せ、閉じ込めるように抱きしめていた。
制服越しに伝わるりこの体温。
細いのに柔らかくて、とても心地よい匂いがした。
「お、及川くん・・・っ、みんなに見られちゃうから・・・!」
恥ずかしそうに身じろぐりこの声に、ちらりと横目で周りを見るが、こんな広い敷地で、隅の方で身を寄せ合う男女に注目する人なんて一人もいない。
そうこうしている間に、夜のショーが始まるアナウンスが鳴っている。
及川は、世界に2人きりだと思うくらいに、強くりこを抱きしめたまま。
「なまえ・・・」
「え・・・?」
「名前で呼んでくれるまで、離してやんない」
子供みたいな要求を言って述べると、りこは困ったように笑みもらし、おずおずと及川のたくましい背中に手を回した。
「徹、くん・・・・・・」