第10章 ep10 繋手
こちらに向かって全力疾走してくる影がある。
「お、及川くん!?」
先程合流した岩泉とは少し話したが、及川とはまだ顔も合わせられていなかった。
肩で息をしながら、及川はいつもより真剣な眼差しでりこを見つめた。
「お、俺と・・・今日1日、回ってくれないかな?」
「え・・・・・・?」
ずっとその言葉を待っていた自分がいて、嬉しさと同時に、照れくささがこみ上げる。
「えっと・・・折角なんだけど、ごめん、この子と回るって約束しちゃってて・・・」
ちらりと隣の友達を見やるが、彼女は待ってましたと言わんばかりに口角を上げた。
「いいじゃん!2人で行っといでよっ」
「ええっ!?でも、そしたら1人に・・・」
「そいつは俺らと回れば、問題ないだろ?」
不意に肩に手を置かれて振り返ると、
「は、一ちゃん・・・!」
岩泉を含む、バレー部たちが歩いてきた。
そう言えば、この子はバレンタインに岩泉に告白していた・・・
ちらりと友人を見ると、その展開は想像してなかった様子で、目を丸くしている。
「悪い、うちのバカ主将の我儘、今日1日だけ聞いてやってくんねぇか?」
「バカっていう方がバカなんだよ岩ちゃん!」
小言を言う及川を無視し、岩泉は友人を見下ろす。
「突然悪い・・・・・・俺たちと回ってほしい、いいか?」
友人は頬を赤らめるが、やがて岩泉を見上げニヤリと笑った。
「良いけど、急流滑り、5回は付き合ってね?」
冗談を言う彼女は、心底嬉しそうだった。
自分の好きな人と回れるんだ、嬉しくないわけが無い。
「おう!吐くまで楽しむぜ!・・・・・・ってわけだ、俺らはこの子と回る。及川、後はがんばれ。そして今度ラーメンおごれ」
「う・・・うぃっす!」
敬礼の合図を送り、入場口へ向かっていった岩泉たちを見送ると、及川はりこに向き直った。
そして深呼吸を一つし、ゆっくり告げる。
「改めて・・・今日、俺とデートしてくれますか?」
そうして、差し伸べる手。
りこはその手と及川を交互に見、そしてぷっと吹き出してから、そっと、その手に自身の手を重ねた・・・
「・・・よろしくお願いしますっ」