第10章 ep10 繋手
たたん、たたん・・・
窓の外は目まぐるしく景色が変わり、座席は心地よく揺れて眠気を誘う。
・・・・・・そのはずだったが、岩泉は隣でそわそわと落ち着きなくする及川のせいで全く眠れない。
ちらりと彼を見やると、時計と睨めっこしたり、手を擦り合わせたり、頬杖をついたりとにかく落ち着きがない。
「及川うるさい」
「何にも喋ってないっての!」
「行動がうるさい。到着時間が早まる訳じゃないんだからもうちょい落ち着け」
「落ち着ける訳ないじゃんかー!修学旅行だよ!?りこに何かあったらどうすんのー!」
三月の頭、青葉城西は毎年この時期に修学旅行に行く。進学のための勉強や就活の事も考えてこの時期にしているのだが、バレーの特待生である及川たちバレー部は1日だけ、最終日に合流する。
今月は県民大会も控えているため、流石に3日間バレーをやらないでいるのはリスクがある為だ。だから早朝宮城を出発して、東京に向かっている最中である。
それについてはバレー部は納得しているが、一人、主将の及川だけは別の事情で不満があるらしい。
「何でりこは俺たちと一緒じゃないんだよー!」
「当たり前だろ、りこはバレー部じゃねぇし、一般生なんだぞ」
やれやれと、他のチームメイトも笑う。
「うぅぅ、分かってるけどさ、よりによって今日はディ〇ニーランドに行くんだよ!?絶対他の奴らがりこのことほっとく訳ないじゃん!連れてかれたりしたらどうしよう・・・」
「お前じゃねぇんだし、誰も連れ去ったりしねぇよ。アホか」
ソワソワする及川とは正反対に、岩泉は落ち着き払って及川をあしらっている。
「お前、あいつと回る約束してんじゃねぇの?」
「う、してない・・・」
「なんでだよ、アホか」
「何か恥ずかしくって言えなかったんだよ」
恥ずかしいってなんだよーと後ろでチームメイトが笑っているが、及川はうるさいっと言って座席の上で体育座りしている。
「お前なんでりこの事になるとそんなへぼいんだよ」
「惚れた弱みってやつだな、及川」
「惚れ!?」
バッ立ち上がり、及川は後ろの席の花巻を振り返った。