第9章 ep9 唯一
りこが・・・
りこの心が、何よりも欲しかった・・・
「貰って・・・くれる、の?他の人たちからのは、みんな断ったって言ってたのに・・・」
恐る恐る尋ねる、可愛いりこ・・・
及川は頷く。
「俺が欲しいのは、一つだけなんだ・・・」
君がくれるもの・・・君からの想いが、欲しかった・・・
「少し、待ってて・・・」
そう言い残すりこ。
家の中で待つ?と言ってくれたが、夜に女性の家に上がり込むのはいくら昔から知ってると言っても、気が引けた。
少しの間、寒空の下で待つことにした及川。
とくん、とくんと心臓の音が聞こえる。
周りはこんなにも冷えているが、心は、暖かかった・・・。
「おまたせ」
再び扉が開きりこが顔を出す。
先ほどよりも少し厚手のセーターを着て、手にはマフラーと、何かの乗った皿を持っていた。
「首元、寒いでしょ?これ、どうぞ」
差し出してくれたのは、クリーム色のマフラー。
「ありがとう」
及川は受け取ると、自身の首に巻き付ける。
(暖かいな・・・)
マフラーも、りこの気持ちも。
「それ、何?」
「フォンダンショコラだよ。温めてきたの」
りこはフォンダンショコラの乗った皿とフォークを及川に差出した。しかし、及川は数秒考えた後、ふるふると首を振った。
「食べさせてくれる?」
するとりこは困ったように目線を落とすが、及川は屈んで、りこの瞳を覗き込む。
「もう、しょうがないなぁ・・・・」
りこはフォンダンショコラの中心からフォークを入れる。
中から暖かいチョコレートソースが溢れ出てきて、りこは綺麗にそれを絡めとる。そして及川の口元へフォークを差し出す。
なんて贅沢な時間なんだろう・・・。
「・・・はい」
「ん、頂きまーす」
りこのフォークを持つ手をそっと掴み、自身の口に運ぶ。
暖かいソースがチョコレートケーキと絡み、中に入っていたラズベリーと合わさって上品な味が口の中に広がる。