第9章 ep9 唯一
(寒いと思ったら、雪降ってきたし・・・)
最寄りの駅で下車し、改札を出ると、外はしんしんと雪が降っていた。
(ま、宮城だから寒いしほとんど解けないし雪だらけなんだけどね・・・)
しかし、やはり降り続く雪の下を歩くと体が冷える。
足早に及川は目的の場所へと向かう。
駅からそう遠くないその家は、暖かな明かりが灯っていた。
及川はスマートフォンを取り出し、先程連絡した相手に電話をかける。
「もしもし?着いたよ。・・・・・・うん、今、家の前にいる・・・」
手短に電話を切り、少し待つ。
白い息で手元を温めていると、ガチャッと扉が開き、会いたかった人物が顔を出す。
「やっほ、りこ、さっきぶり」
「及川くん・・・?」
りこは後ろ手に扉を閉めて、及川へ歩み寄る。
「あ、雪降ってきたんだね・・・どうりで寒いんだ」
「うん、そうだね、りこ薄着だけど、大丈夫?俺のブレザー貸そうか?」
「ううん、大丈夫。練習お疲れ様・・・」
「ありがとう」
門扉を開き、及川のすぐ近くまで来て、彼を見上げる。
こんな時間に、どうしたの?と目が言っている。
「あのさ、りこ・・・」
「なに・・・・・・?」
いざ言うとなると、やはり緊張する。
脳裏に昼間の告白されていた彼女が脳裏に浮かぶ。
彼女を狙っている奴らは多い、今日改めてわかった。
みんな彼女からのチョコレートを欲しがっていた。
及川は真っ直ぐに彼女を見つめる・・・
「りこは今日、誰かにチョコ渡した・・・?」
「え・・・っ?」
目を丸く見開くりこ。
「もしも、"まだ"、渡してないんだったら・・・」
無意識に手が伸び、及川の左手は、彼女の小さな右手を掴んでいた。
「俺に、くれないかな・・・・・・?」
バレンタインデーに、自分から欲しいと言ったのは初めてだった。
いつも周りには自分を慕ってくれる女の子がいて、沢山の愛を形にして貰っていた。
けれど、こんなにも、誰かひとりの気持ちを欲しがったのは、初めてだった・・・