第9章 ep9 唯一
「で?今年のチョコ獲得数は?岩泉」
「知らねぇ、数えてねぇよ」
「またまたぁ、俺、クラスの女子がお前に告ったって聞いたぜ」
いつもの練習終わりの部室、バレーモードから普通の男子高校生に戻った彼らは本日のチョコレート獲得数の話をしていた。
「うっそマジかよ岩泉〜」
「それはいいだろ、プライベートだ」
「なんだよプライベートって」
花巻が笑う。
「渡っちが俺より貰ってたって、矢巾が嘆いてたぞ」
「お、渡っち隅に置けないねぇ〜」
「そ、それは・・・矢巾のやつ・・・!」
渡は照れたように頭をかく。
「及川さんは、今年はいくつ貰ったんですか?毎年凄いって聞いたんですけど」
自分の話題から逸らすため、渡は及川を向いた。
「ちげーよ、渡っち、及川は紙袋何個分って聞いた方がいいぞ」
「そうなんですか!?凄いっすね・・・」
パタンっとロッカーを閉め、及川は彼らを見る。
そしてサラリと告げる。
「ゼロだよ」
え?の言葉も出ないまま、岩泉以外の全員が固まる。
「及川お前、マジで誰からも貰ってねぇのかよ!」
「うん。・・・・・・・・・じゃ、俺、行くところあるから、岩ちゃん戸締りよろしく〜」
お疲れーいといって背中を向け、ピースサインをしてから及川は部室を出た。
何か後ろで騒がしくなっていたが気に止めず、及川は寒空の下、スマホを開く。
そして、彼女に電話をかける・・・
「もしもし?いま、練習終わったんだけどさ、少し時間あるかな・・・?」
今年のバレンタインは、本当に手元が軽いーーー・・・