第9章 ep9 唯一
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(自分に向けてくれる好意を断るのって、しんどいんだな・・・)
及川は痛感した。
自分のために作ってくれたチョコレート、ラッピングにもこだわっていて、これを喜ばない男なんていないだろう。
でも、それを今回断り続けている及川は、断られた彼女たちの顔を見る度に胸が痛んだ。
自分を想って作ってくれていたのに、受け取らないことへの罪悪感が芽生える。
(でも、今回はそれでも・・・)
たったひとり、りこからのものが欲しかった。
当の本人には、まだ今日会っていない。
休み時間は、女子生徒達からのプレゼントを断るのに費やしていて、お昼休みももう半分を過ぎてしまっていた。
とりあえず、隣のクラスの岩泉とりこの元へ足を運ぶ。
(って、あれ・・・?)
及川が隣のクラスに入ると、いつもの席には岩泉の姿しか見当たらない。りこの姿は無かった。
「岩ちゃん、りこは・・・?」
「俺もまだ見てない。さっき体育の授業で、着替えに行っててまだ戻って来てねぇ」
(てことは・・・・・・)
また、嫌な予感がする・・・・・・ーーー
「初めて会ったときから好きでした!」
大きな声は、昼休みのざわついた校舎の中でも響く。
やはり、階段の一番下の踊り場でりこはとある男子生徒から告白されていた。
名札の色が、りこのと異なるため、恐らく彼は一年生だと思う。あまり見かけない顔だ。
「もし、誰とも付き合ってなかったら、俺と、付き合って下さい!」
そう言って頭を下げて、手を差し伸べてくるが、りこは押し黙る。
彼の気持ちは嬉しい。
自分に好意を向けてくれたり、魅力に感じてくれる事は、女として嬉しかった。
しかし、
「ごめんなさい。あなたの気持ちは凄く嬉しい。でも、私、付き合う事は、できないです」
そう断るしか無かった。握りしめた体操着に力が入る。
申し訳なく、頭を下げる。
その様子に、男子生徒は頭を上げて口を開く。
「好きな人が、いたりしますか・・・?」