第9章 ep9 唯一
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2月14日 バレンタインデー当日・・・
朝練を終えた及川は、昇降口で上履きへ履きかえるため下駄箱を開ける。
ザザっと転がり落ちてくるお菓子の包や箱を慣れた様子で受け止め、何故かノブにかかっていた紙袋に入れていく。
その手馴れた様子に岩泉は舌打ちする。
「毎年毎年慣れたもんだな、クソ川」
去年のバレンタインも、七月の及川の誕生日の日もプレゼントやお菓子の量は凄まじかった。
いつも帰り道は両腕に紙袋の山を抱えて帰る及川に、チームメイトはボールを当てたりしてからかっていた。
両腕を使えない及川の必死に避ける様を思い出して少しスカッとする。
「うん。でも・・・」
と、及川はやっとこさ上履きを取り出すとフタを締め、そこにビニールテープで開かないようにした。
「何してんだ?」
「今年は・・・」
ビニールテープでしっかりと封をした及川は岩泉を真っ直ぐ見た。
「りこにしか、貰わないって決めたんだ」
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「おはようりこ」
「おはよう・・・」
「おはようりこちゃん!」
「おはよう・・・」
朝からりこは少しぐったりしていた。
登校してからというもの、今日はやけに男子から挨拶をされる。
クラスの男子はいいとして、他クラスの、まだ喋った事も無い生徒からも挨拶されるし、何故か名前も知っている。
さっきしたばかりなのに、またわざわざ挨拶しにくる人もいる。
しかも大体、みんないつもより髪の毛を整えていたり身なりを良くしている。
「みんなりこちゃんから、チョコ貰いたいんじゃない?男子ってわかりやすいよね〜」
「そう・・・なのかな、ははは・・・」
隣に並ぶ友達の言葉に苦笑いするりこ。
彼女の言うことが本当かは知らないが、今日は男子からの視線がいつもより多く感じる気がする。