第9章 ep9 唯一
「岩ちゃん知ってた!?りこが他の男子からモテモテなんだって!」
部室で制服から練習着に着替えている岩泉は、は?と言いたそうに振り返った。
「モテモテってのは知らねーけど、今日もクラスの奴と連絡先交換してんのは見たな」
「ちょっと!何で止めないのさ!りこの連絡先なんて、俺、聞くの超色々考えたのにさ!」
「別に連絡先くらいいいだろ?悪い奴らじゃねぇし、友達が増えんのはいい事だろ」
「そいつらは絶対りこのことそう言う目で見てないって!狙ってるんだってば、もう〜〜!」
1人で悶えている及川を、岩泉は冷めた目で見下ろす。
「本当めんどくさいやつだな、お前」
「酷い、岩ちゃん!俺が岩ちゃんなら、24時間りこのボディーガードしてあげるのに!」
「それは完全にキモいぞ及川」
花巻や他の同期のメンバーがくすくすと笑う。
「今度のバレンタインは、きっと争奪戦だな、頑張れよ及川。義理でも貰えるか悩みどころだな」
「あんな美人から貰えるなら義理でもなんでもいいわ、俺なら」
「ちょーっと!お前ら何自分は貰えます、余裕ですみたいな態度でいれんの!そもそもりこは義理チョコ用意してるか分かんないじゃん!!」
確かに最近は一緒にお昼を食べたり勉強を一緒にしたりして、他の生徒達よりは距離が縮まっているかも知れないが、クラスは違うし、自分より彼女に近づきやすい奴らは大勢いる。
どうやって彼らの魔の手からりこを守って、そして褒美というチョコ(この際義理でもいい!)を貰えるのだろうか。
及川の頭はそんな事にフル回転で動いていた。
「いいじゃねぇか、お前、今年も他の女子からいっぱい貰えんだろ」
ジャージのチャックを上まで締めながら岩泉は言った。
違う、と及川は手を降った。
「りこから貰えなきゃ意味ないんだよー!チクショー!」
遂に頭を抱えて叫ぶ及川。
そんな主将を見つめながら、他の同期は同じことを思った。
(そんな事言ったら、お前の気持ちダダ漏れだぞ・・・)
こんなに1人の女子に悶える及川が珍しく、彼らはバレンタインがある意味待ち遠しかった。