第1章 ep1 追憶
始業式のために冷えきった体育館に移動する。
背の順で整列している為、及川は列の最後尾で、隣のクラスの岩泉はその及川の隣で式が始まるのを待っていた。
ふと、何か視線を感じて振り返ると、他クラスの女子生徒が及川の方に熱い視線を送っていた。及川は慣れた様子で微笑み、手を振る。
すると彼女たちは口元を手で覆い満足したようにかけていった。
「ヘラヘラしてんじゃねぇよ」
と岩泉が眉間にシワを寄せる。
「嫉妬は醜いぞ、岩ちゃ・・・っいた!」
及川が言い終わる前にその頭に手刀する。
及川徹はよくモテる。恵まれた身長に、整った顔、オマケに人見知りしないフランクな性格が後押しし、学年関係なく彼に声をかけてくる。故に女関係の噂話も後を絶たない。最近だと年末頃に吹奏楽部の一年生と仲良くしていたみたいだが…。
「そう言えば、あの吹奏楽部の一年生の子とはどうなったんだよ」
「あぁ、あの子?顔は可愛らしいよね。いつも手作りのお菓子とか持ってきてくれるんだよ」
それを聞いて岩泉はため息をついた。
「お前って、女にだらしないクセに自分からはガツガツ行かねぇよな」
及川の恋愛戦法は、俗に言う来るもの拒まず去るもの追わず。自分からは決して動かず、相手からのアプローチを受けて初めて行動する。
バレー部の主将として務める及川は、恵まれた才能とそれに勝る努力が光るが、
私生活は本当に女にだらしない。
「だって、可愛い子達からはちやほやされたいし?一人だけって苦渋の選択過ぎるよ」
そう言い返す及川に、岩泉はため息しか出なかった。
「お前本当に一回地獄見ろ」
「なんでそんな事言うのさ岩ちゃん!」
そんな言い合いをしていると、近くの男子生徒たちがざわつき始めた。