第6章 ep6 拒絶
「易々と触れていい子じゃないんで・・・・・遠慮してもらえますよね?」
それは、はい、かYESしか聞かないような問いかけ。
地の底から響くような低い声を、りこは聞いたことがない。
及川の背中越しに見る男子生徒たちは、ぞくりと肩を震わせ無言で、駆け足で、階段を降りていくのが見えた。
足音が完全に聞こえなくなるまで、及川はこちらを向かず、りこもまた、先程の彼の凄みのある声を聞いて動けずにいた。
「あの・・・」
恐る恐る口を開いたのは、りこだった。
すると及川は、ゆっくりと振り向く。
そこには、
「大丈夫だった?」
いつもと同じ、柔らかく微笑む及川がいた。
その姿に、何故か、胸がざわつく。
(昔とは体つきが全然違う・・・)
細身だけど、筋肉の引き締まった広い背中、力強い腕、長い脚。
背も自分の方が高かったのに、今はもう、圧倒的に彼を見上げている自分がいる。
5年の月日は、こうも人を、変えるものなのか・・・
(でも、この笑顔は、変わってない・・・)
あの時、隣のコートから見てた彼と同じ・・・・・・
「あぁ言うの、ほんっと無いよね」
「っ・・・・・・」
及川の声で、りこは我に返る。
「嫌がってる女の子に、無理無理連絡先聞こうとして、見てるこっちが恥ずかしいよ」
彼は流れる動作でしゃがみこみ、足元にいつの間にか落ちていたりこのスマートフォンを拾いあげる。
「はい」
彼の大きく、しかし綺麗な手のひらからそれを受け取ると、りこは改めて彼を見上げる。
柔らかそうな赤みのある髪、
白い肌、
鼻筋の通った、整った顔立ち、
幼かったあの当時の彼はいなく、もう随分、男の人の顔をしている。
彼がこの学校で人気のある人だとは思った。クラスの女子たちも彼の話をよくしているし、人当たりもいいのだと思う。
バレーの主将をしていると聞いたし・・・
その眼差しを見ると、
(もう、随分遠くの人になっちゃったんだね・・・)
今のりこには、眩しかった・・・