第31章 ep31 離別
及川が謝っても、あれ以来、りこは及川を避けたまま、今日の日を迎えてしまった。
生憎、りこが口聞いてくれないから士気が落ちるとか、そんなメンタルの弱さは持ち合わせていないから、一日目のリーグ戦はストレートで一位通過した。
ベンチにいたりこは、相変わらずボトルやタオルをくれながら、自身が気になった所を個人に指摘してくれる。
「及川くん、ちょっと今日、サーブのトス前過ぎ。ラインクロスするよ」
「ん、わかった」
自分にも、アドバイスはくれる。
これは勝つために必要なことだから、気まずさなんて関係ないのだろう。至って出来る女だ・・・。
その日の夜、宿泊先のホテルのミーティング会場で明日の対戦相手のビデオを見て、一同は解散した。
「及川くん、ちょっと・・・」
そう呼び止められてドキリと胸が跳ねたが、及川を呼んだりこはちょいちょいとパソコンの前に手招きする。
「今日私が指摘したサーブの映像、見てくれる?」
そうして慣れた手つきでパソコンを扱い、今日の試合での及川のサーブシーンを流した。
「本当だ、もうちょいでこれ、ライン踏むなぁ」
「でしょ?天井が高いのは分かるけど、いつもよりなんか前のめりな感じがした、今日は」
明日は慣れてると思うから、それでも気になるなら、スタート位置を二歩くらい後ろからにしてみるといいかもね、と適切なアドバイスをしてくれる。
(避けていても、ちゃんと自分を見てくれている・・・)
彼女の想いが伝わる。
本当に自分たちを勝たせようとして言ってくれている。
そんな彼女に、及川は酷いことを言ってしまったな、ともう1度深く反省した・・・
「りこ・・・本当にごめん。あの時、なんであんな事言ったのか、ホント餓鬼だったって思う」
勝手に怒ってろなんて・・・自己中極まりなかった。
りこは答えない。その代わりに俯いて、黙って話を聞いていた。
「本当に反省したし、りこの気持ちも考えた。こないだ言った通りだよ。りこがいない所でも、俺は夢を諦めちゃだめだって」