第31章 ep31 離別
「あらぁ?今日は早く出ていったわよ、徹ちゃんには言ってあるからって」
次の日の朝、及川がりこの家にいつもの様に迎えに行くと、昨日の言葉通りりこは既に1人で登校したらしい。出たのは彼女の母だった。
「そう、ですよね・・・」
「やだ、あの子徹ちゃんに何も言ってないのかしら」
「いや、聞いてました・・・すみません」
(本当に1人で行ったんだ・・・)
昨日のりこの怒った顔、初めて見た。
何に怒ってるのか、何となく、検討はつく。
(俺がりこと離れるの嫌って言ったからだろなぁ・・・)
だが、普通に考えてそう思ってしまうのは当たり前だと思う。
誰だって自分の大切な人と離れたくないし、出来ることなら、一緒にいたい。
それがわからない彼女ではないだろうが・・・
ーーー・・・
学校でも、りこは完全に及川を避けていた。昼休みは食堂へ行くし、練習も、始まるぎりぎりまで外で仕事をしている。終われば後輩の自主練に付き合っている。それから教官室で作業をしたりしている。
及川は何とか彼女と話をするため、主務の仕事を終わる彼女を待っていた。
(出てきた・・・)
教官室の明かりが消え、体育館の電気も消えたあと、暫くして玄関にりこが現れた。
「りこ」
一瞬ビクリとした彼女だが、及川だとわかった途端、表情を変えた。
「・・・・・・なに・・・?」
今まで聞いた事の無い声色だった。
「その、昨日はごめん。だけど俺・・・」
「私の仕事終わるの、待たないで早く休んだ方がいいよ。もうすぐ東北大会もあるし」
それじゃ、と昨日と同様に及川の脇をすり抜けていくりこ。
(まだ、怒ってる・・・)
でも、そんなに怒ること!?と及川はりこの態度に、自身の感情が苛立ちに変わっていくのを感じた。
「もう、勝手に怒ってればいいじゃんか!」
初めてこんな事を言った。
みっともない、分かっているけれど、吐かずにはいられなかった。
及川の声が聞こえたであろうりこは振り返ること無く、歩き去って行ったーーー・・・