第28章 ep28 実感
及川徹は優れた選手だと思う。
恵まれた体格、恵まれたセンス、
それを磨きあげる努力家。
それでいてセッターとしても、主将としても、チームに絶対の信頼を置き、また置かれている。
そう改めてりこが感じたのは、インターハイ予選だった。
あぁ、このエアーサロンパスの匂い、汗の匂い、
体育館中から聞こえるボールの音、シューズの擦れる音、
懐かしいな、とりこは思った。
会場につけばアップの取れる場所を探したり、ボトルを作ったり・・・
今、りこは青葉城西のマネージャーとして彼らと同じ爽やかな色のジャージを纏い、体育館の入り口に入った。
監督の後を追い、これからの予定をメモしていく。
それからエントリーシートを近くのベンチで書き上げながら、ちらりと青城の選手を見る。
(うちの選手はみんな自由だけど・・・)
放つ、纏うオーラが違う。
すれ違う選手たちが彼らの背中を追う。
視線が引き寄せられるのは、彼らが普段の練習で放つ覇気や、勝利に対する貪欲さが嫌でも滲み出ているからだ。
と思ったが、
「飛雄ちゃーん、チビちゃん、元気に変人コンビやってる?」
1人、例外者がいるらしい。
岩泉にどつかれる我らの主将、及川。
いつものように岩泉に怒られしょんぼりした顔つきで歩いてくる。
そう、いつもと変わらない彼。
ヘラヘラにこにこして、皆から残念なイケメンと称される彼・・・
だけどりこは、また彼に魅せられることになる・・・
「信じてるよ、お前ら」
そう言ったのは一試合目。
ベンチからそれを聞いていたりこは、その一言でチームの空気が変わるのを感じた。
明らかに締まる。目が、顔つきが、勝ちに行く、そう言う顔に切り替わった。
(凄い・・・)
普段はへらりとしているのに、
今までのバレー人生の中で、ここまで表情の、気迫の切り替わる選手は彼が初めてだ。
その前置き通りに、及川のプレーは勝利に貪欲であることを現している。